いよいよ異動者の荷造りが始まった。
異動者はマニュアルやら防災グッズやらを段ボール箱に詰めて異動先へ送る。
荷造りしている姿を見ると「春が来たなぁ」としみじみする。
僕の前の上司はちょっと変わっていた。
上司が異動してくる時、数十本にも及ぶ長傘の束が紐でぐるぐる巻きにされて部署に送られてきた。
なんでも、入社してから今に至るまで出先で買った長傘を全部捨てずに取ってあるらしい。
思い出なんだそうだ。
思い出の形は人それぞれある。
荷造りをしていると、そういえばこんなものあったなぁ…と意外なものが奥底から出てきたりする。
大抵は要らないもので捨ててしまうのだけど、後輩に授けていくものもある。
僕は前の部署から去る時、「魚民」と大きく書かれた、キャッチの人が被っている蛍光色の帽子を後輩に授けてきた。
「君が異動するときは、次の後輩に託して」と言葉を添えて。
あの帽子は今も受け継がれているのだろうか。
とにもかくにも、異動の準備を進める後輩を見て、いよいよ今週でお別れなんだなぁと寂しい気持ちになった。
もう、あと4日しかないのか。
僕が次に異動するときに詰めるモノはなんだろう。
たぶん思い出と、切なさと、名残惜しさで段ボールがいっぱいになってしまうだろう。
きっと、後輩が今準備している段ボールにもたくさんの名残惜しさが詰まっていると思う。