僕は環境の変化が苦手だ。
高校生まではあまり深く考えていなかったのか、クラス替えや席替えなど特に何とも思わなかった。
社会人になってから急速に環境の変化に対応できなくなった。
まずは新入社員の時期。
先輩も上司もとても優しくて、支店の雰囲気も和気藹々としていて、今風の言葉で言えばいわゆる「部署ガチャ」に成功した。
だが、大学生から社会人に切り替わることがスムーズにできなかった。
サナギが蝶々に羽化できず、羽がしおれて飛び立てない。そんな気持ちだった。
心の奥底で正体不明のモヤモヤが沸々と湧き出てくる。際限なしに湧き出たそれはやがて僕の心を隅々まで侵食していく。
配属されてから一か月近くお昼ご飯を食べることができなかった。
お腹も空かないし、何よりご飯が喉を通らないのだ。
ぐるぐるとネガティブな感情ばかりが頭を駆け巡り、仕事をしていても憂鬱な気持ちでいっぱいになる。
これらの解決方法はやがて理解することとなったが、何よりも時間が解決するのだ。
2,3か月も経てばある程度部署の一員として認められはじめ、溶け込んでいく。
真夏のアスファルトに落としたアイスクリームのように、次第に僕の心も部署の中に溶け込んでいく。
とにかく慣れるしかない。時間が過ぎ去るのを待ち、慣れるしかないのだ。
だがしかし、僕の会社には半年に一回程度デスク配置換えがある。いわゆる「席替え」だ。
席替えをして、違う上司の下につくとまた心が萎んでいく。
萎んで萎んで会社に行くのが憂鬱になる。
ただ、それもまた時間が解決する。
萎んでは溶け込んでのサイクルを幾度となく体験してきた。
さて、春と言えば出会いと別れの季節。
一般的に金融機関は3年程度のサイクルで部署を異動することになる。
僕は今まで一度異動を経験した。
環境の変化が苦手な僕にとって部署移動は大きな大きな障害となる。
異動先でのアウェイ感、慣れない通勤経路、見知らぬ街、素性も分からない同僚や上司…。心の靄を体いっぱいに広げるには十分すぎるほどの不安が異動には詰まっている。
しかし、住めば都とはよく言ったもので、慣れてしまえばどうしてあそこまで悩んでいたのかと過去の自分が馬鹿らしくも思える。
要するに、先述した通りやはり慣れ以外解決方法はないのだ。
僕は今の部署に4年弱在籍している。
そして、明日が異動発表の日だ。
僕が異動する確率は5:5、フィフティフィフティ、ハーフ&ハーフだろう。
希望している部署があるが、そこに行ける可能性は極めて低い。
万が一行けたとて、慣れ親しむのにもかなりの時間を要するはずだ。
そして、今の部署に残留になったとしても上司や同僚の顔ぶれが変わるため環境の変化はどうしても発生する。
どうあがいても毎年この時期は憂鬱にならざるを得ないのだ。
僕は今日、おそらく寝られないだろう。
それは入学を待ち望む新小学一年生のようなワクワク感なのか。
それとも、大学生というモラトリアム期間を終えて、懲役40年の永い旅路に出る新入社員のような不安感なのか。
今、僕の心は楽しみと不安をごちゃ混ぜにした絵の具のように乱れている。